遺伝情報を操作したブタを迅速?高効率で作成する手法

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報告者

先端酵素学研究所 初期発生研究分野 助教 竹本龍也

 

研究タイトル

「遺伝情報を操作したブタを迅速?高効率で作成する手法」

 

研究グループ
    • 先端酵素学研究所 初期発生研究分野 助教 竹本龍也
    • 大学院生物資源産業学研究部 生物資源生産科学分野 教授  音井威重
    • 大学院生物資源産業学研究部 生物資源生産科学分野 特任助教 谷原史倫

 

研究概要

【研究の背景】

ブタは生理学的、病理学的、解剖学的にヒトに近いことから、医学分野で注目を集めている動物です。また、その体の大きさもヒトに近いことから、医師の手術手技トレーニングのために活用されています。したがって、ヒトの病態モデルとなるようなブタを遺伝子操作によって作製できれば、治療方法の研究や、創薬研究、また、手術トレーニングに活用することができ、医学研究の大幅な発展が期待されます(図1)。しかしながら、遺伝子改変ブタの作成には高度な技術と時間を必要とし、また、作製効率も著しく低いという問題点がありました。

今日まで遺伝子改変ブタは、体細胞に遺伝子改変を行った後、体細胞クローン技術を用いて遺伝子改変クローン胚を作製し、それらを受胚ブタへ移植することで作製されてきました。しかしながら、標的となる遺伝子を改変した体細胞作製率は非常に低く、また、クローン胚作製には高度な手技を必要とし、たとえ熟練者であっても一度の移植に必要な約200個のクローン胚を作製するには長時間を必要としていました(図2)。さらに、体細胞クローン技術における決定的な欠点は、正常な産子の作製効率が非常に低いことで、遺伝子改変ブタの作製は難易度が高いのが現状でした。

近年になって、ゲノム編集技術が確立され、その技術を活用して様々な動物種で遺伝子改変が可能になりました。ゲノム編集動物を作製するためには、受精卵の段階で、ゲノム編集を引き起こす分子(Cas9およびガイドRNA)を受精卵内に導入する必要があります。このために、ガラスキャピラリーを用いて受精卵に分子を直接導入する方法(インジェクション法)がマウスや魚類など多くの動物で行われています。しかしながら、ブタの受精卵は、マウスなどほかの動物種の受精卵と比べると、多量の脂肪を含むためインジェクション法を用いてゲノム編集を行うことは技術的に困難でした。

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【研究の成果】

本研究では、ゲノム編集されたブタを簡便に作成できる方法「GEEP法(Genome Editing by Electroporation of Cas9 Protein)」を確立しました。この手法は、電気によって受精卵細胞を囲む膜に一時的に穴をあけ、ゲノム編集を引き起こす分子をブタ受精卵に導入します(図3)。この手法を用いて、筋肉の増殖や肥大を抑制している遺伝子(マイオスタチン遺伝子)を破壊したブタを作製しました。マイオスタチン遺伝子が破壊されたブタは、通常のブタより筋肉が過剰に作られていました(図4)。本手法の確立により、さまざまな遺伝子を操作したブタをこれまでよりも短期間で作製できるようになることが期待されます。作製した遺伝子操作ブタを活用することにより、医学研究の発展に寄与できると考えています。

 

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今後の展望

本技術は医学研究への応用だけでなく、畜産?農学分野での研究にも寄与できると考えています。ブタは家畜の中でも特に病気(伝染病)に弱いといわれており、一昨年には仔豚にかかる伝染病の流行により多くの仔豚が死に、莫大な経済的損失が生まれました。本技術により様々な病気に強いブタを簡単かつ高効率で作製できるようになれば、畜産?農学分野の発展に大きく貢献することができると考えています。

 

学術誌等への掲載状況

Fuminori Tanihara, Tatsuya Takemoto, Eri Kitagawa, Shengbin Rao, Lanh Thi Kim Do, Akira Onishi, Yukiko Yamashita, Chisato Kosugi, Hitomi Suzuki, Shoichiro Sembon, Shunichi Suzuki, Michiko Nakai, Masakazu Hashimoto, Akihiro Yasue, Munehide Matsuhisa, Sumihare Noji, Tatsuya Fujimura, Dai-ichiro Fuchimoto, Takeshige Otoi

Somatic cell reprogramming–free generation of genetically modified pigs

Science Advances 2 (9): e1600803 (2016). doi: 10.1126/sciadv.1600803

http://advances.sciencemag.org/content/2/9/e1600803

 

参考

http://www.fujii.tokushima-u.ac.jp/embryology/

 

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