西岡安彦教授が第60回(2023年度)ベルツ賞を受賞しました

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            贈呈式の様子
左から、駐日ドイツ連邦共和国大使 クレーメンス?フォン?ゲッツェご夫妻、
西岡安彦教授ご夫妻、べーリンガーインゲルハイムシニアアドバイザー 
ディジーズマップ フローリアン?ガントナー氏

贈呈された賞状とメダル

 西岡安彦 教授(大学院医歯薬学研究部?医学部長)が、第60回(2023年度)ベルツ賞の1等を受賞しました。
 ベルツ賞は、日本とドイツ両国の歴史的な医学領域での交流関係を回顧し、またその交流関係を更に深めていく目的で、ベーリンガーインゲルハイム社が1964年に創設した伝統のある医学賞です。正式には、エルウィン?フォン?ベルツ賞と名付けられています。

 【受賞論文題名】
   肺線維症に対する抗線維化薬開発:がんと線維化肺の接点を捉えたトランスレーショナルリサーチ
   Development of antifibrotic drugs against pulmonary fibrosis: translational research focusing on the interface between cancer
   and fibrotic lungs

受賞論文について

 ベルツ賞は、毎年時宜に応じたテーマで論文の募集が行われ、優れた論文に授与される日本を代表する医学賞の一つです。記念すべき第60回にあたる本年のテーマは「間質性肺疾患」で応募論文の審査が行われ、西岡安彦教授の「肺線維症に対する抗線維化薬開発:がんと線維化肺の接点を捉えたトランスレーショナルリサーチ」が高く評価され、第60回ベルツ賞で1等賞を受賞しました。
 間質性肺疾患(※1)には200以上の様々な疾患がありますが、特発性肺線維症(IPF)(※2)は原因不明の間質性肺炎の中で最も頻度が高く、慢性進行性に肺の線維化が進行し肺活量の低下と共に呼吸不全をきたす国の指定難病で、5年生存率は30~50%とがんより予後が不良な肺疾患です。
 西岡教授は、2000年代初頭よりIPFに対する抗線維化薬の開発を目指して基礎研究及び臨床研究に取り組んできました。当時のがん研究にヒントを得て、臨床現場に登場しつつあった「がん分子標的治療薬」の「抗線維化薬」としての可能性に注目し、ドラッグリポジショニング(※3)の発想で、様々な標的分子のスクリーニングを行い、増殖因子、特に血小板由来増殖因子(PDGF)に着目し、PDGF受容体の阻害薬が高い抗線維化効果を示すことを動物モデルで証明しました。また臨床効果を高めるために薬剤耐性メカニズムやその克服法、さらに安全性の面からのPDGF受容体阻害薬の妥当性を証明し、産学連携により薬剤開発に取り組んできました。
 特に大鵬薬品工業株式会社との動物モデルを用いた共同研究でTAS-115という新しい薬剤の抗線維化効果を見出し、効果的な臨床試験デザインを考案するとともに、IPF患者を対象に早期臨床試験を実施し、有望な試験結果を報告しました。現在、臨床応用を目指して後期臨床試験が進んでいます。
 また、肺線維症の治療標的として早くから線維細胞(fibrocyte)という新しい細胞に注目し、がん組織と線維化した肺組織に対して最新技術を用いた解析を行い、その実態を世界に先駆けて報告しました。同時に線維細胞が発現する新たな治療標的の同定を進め、臨床応用を目指した橋渡し研究(※4)を進めています。

受賞のコメント

 このような栄誉ある賞をいただき、大変光栄に存じますと共に身の引き締まる思いです。これまで一緒に研究に取り組んでいただいたスタッフ、大学院生、共同研究者の方々に、この場をお借りして心より御礼申し上げます。肺線維症患者さんに新しい抗線維化薬を届けることができるように、今後もよりいっそう研究に励み、努力を続けたいと思います。(西岡安彦)

用語解説

※1 間質性肺疾患
 肺の間質とは、肺胞の壁にあたる部分や気管支?血管の周辺の組織を意味し、空気が入る肺胞(実質)を取り囲むような部位を意味します。そこに病変が起こる疾患を間質性肺疾患と呼び、肺胞を取り囲む組織が炎症で硬くなるために肺活量が低下し、進行すると呼吸困難を生じる疾患です。
※2 特発性肺線維症(IPF)
 特発性肺線維症(IPF)は原因不明の間質性肺炎の中で最も頻度が高く、慢性進行性に肺の線維化が進行し肺活量の低下と共に呼吸不全をきたす国の指定難病で、5年生存率は30~50%とがんより予後が不良な肺疾患です。日本における有病率は人口10万人あたり10.0と言われています。
※3 ドラッグリポジショニング
 ドラッグリポジショニングとは、ヒトでの安全性や体内動態が確認されている既承認薬について、新たな薬効を見いだし、別の疾患に対する治療薬として開発する手法のことです。
※4 橋渡し研究
 トランスレーショナルリサーチとも言われ、主に基礎研究から見つかった将来の医療をより良くする可能性がある薬や医療機器の候補を、適切にかつ迅速に開発して有効性と安全性を検証し、患者さんのための治療、診断などに実用化するための研究のことです。

主な論文

1. Aono Y, Nishioka Y, Inayama M, Kishi J, Ugai M, Uehara H, Izumi K, Sone S. Imatinib as a novel antifibrotic agent in bleomycin-induced pulmonary fibrosis in mice. Am J Respir Crit Care Med 171(11):1279-1285, 2005.
2. Inayama M, Nishioka Y, Azuma M, Muto S, Aono Y, Makino H, Tani K, Uehara H, Izumi K, Itai A, Sone S. A Novel IκB kinase-β inhibitor ameliorates bleomycin-induced pulmonary fibrosis in mice. Am J Respir Crit Care Med 173(9):1016-1022, 2006.
3. Azuma M, Nishioka Y, Aono Y, Inayama M, Makino H, Kishi J, Shono M, Kinoshita K, Uehara H, Ogushi F, Izumi K, Sone S. Role of α1-acid glycoprotein in therapeutic antifibrotic effects of imatinib with macrolides in mice. Am J Respir Crit Care Med 176(12):1243-1250, 2007.
4. Aono Y, Ledford JG, Mukherjee S, Ogawa H, Nishioka Y, Sone S, Beers MF, Noble PW, Wright JR. SP-D regulates effector cell function and fibrotic lung remodeling in response to bleomycin injury. Am J Respir Crit Care Med 185(5):525-536, 2012.
5. Mitsuhashi A, Goto H, Saijo A, Trung VT, Aono Y, Ogino H, Kuramoto T, Tabata S, Uehara H, Izumi K, Yoshida M, Kobayashi H, Takahashi H, Gotoh M, Kakiuchi S, Hanibuchi M, Yano S, Yokomise H, Sakiyama S, Nishioka Y. Fibrocyte-like cells mediate acquired resistance to anti-angiogenic therapy with bevacizumab. Nat Commun 6:8792, 2015.
6. Maher TM, Stowasser S, Nishioka Y, White ES, Cottin V, Noth I, Selman M, Rohr KB, Michael A, Ittrich C, Diefenbach C, Jenkins RG: on behalf of the INMARK trial investigators. Biomarkers of extracellular matrix turnover in patients with idiopathic pulmonary fibrosis given nintedanib (INMARK study): a randomised, placebo-controlled study. Lancet Respir Med 7(9):771-779, 2019.
7. Koyama K, Goto H, Morizumi S, Kagawa K, Nishimura H, Sato S, Kawano H, Toyoda Y, Ogawa H, Homma S, Nishioka Y. Novel multiple tyrosine kinase inhibitor TAS-115 attenuates bleomycin-induced lung fibrosis in mice. Am J Respir Cell Mol Biol 60(4):478-487, 2019.
8. Morizumi S, Sato S, Koyama K, Okazaki H, Chen Y, Goto H, Aono Y, Ogawa H, Nishimura H, Kawano H, Toyoda Y, Uehara H, Nishioka Y. Blockade of pan-fibroblast growth factor receptors mediates bidirectional effects in lung fibrosis. Am J Respir Cell Moll Biol 63(3):317-326, 2020.
9. Mitsuhashi A, Koyama K, Ogino H, Afroj T, Nguyen NT, Yoneda H, Otsuka K, Sugimoto M, Kondoh O, Nokihara H, Hanibuchi M, Takizawa H, Shinohara T, Nishioka Y. Identification of fibrocyte cluster in tumors reveals the role in antitumor immunity by PD-L1 blockade. Cell Rep 42(3):112162, 2023.
10. Nishioka Y, Homma S, Ogura T, Sato S, Arai N, Tomii K, Kamio K, Sakamoto S, Miyazaki Y, Tomioka H, Hisata S, Handa T, Azuma A. Exploratory phase 2 study of the novel oral multi-kinase inhibitor TAS-115 in patients with idiopathic pulmonary fibrosis. Respir Investig 61(4):498-507, 2023.

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